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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)68号 判決

神戸市中央区港島中町4丁目1番1

原告

株式会社ダイエー

代表者代表取締役

中内功

訴訟代理人弁護士

石川順道

同弁理士

下坂スミ子

東京都中央区銀座3丁目12番2号

被告

株式会社ホテル銀座ダイエー

代表者代表取締役

大湯和男

訴訟代理人弁護士

長瀬弘毅

同弁理士

近藤豊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

「特許庁が平成8年審判第8670号事件について平成10年1月5日にした審決を取り消す。」との判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

被告は、第42類「宿泊施設の提供」を指定役務とし、判決別紙1審決理由添付の別紙のとおりの構成から成る登録第3073593号商標(平成4年9月30日商標登録出願、平成7年8月31日設定登録。本件商標)の商標権者である。

原告は、平成8年5月30日、被告を被請求人として、本件商標につき、商標法4条1項8号及び15号に違反することを理由として商標登録無効審判の請求をし、平成8年審判第8670号事件として審理されたが、平成10年1月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年2月6日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

判決別紙1審決理由のとおりであり、審決は、本件商標は、商標法4条1項8号及び15号に違反して登録されたものとはいえないと判断した。

第3  当事者の主張

1  原告主張の審決取消事由

審決は、本件商標の使用の事実のみをもって、本件商標は需要者間に被告の役務の提供に係る商標として認識され、その結果原告を想起、連想するようなことはない旨、認定判断したが、需要者は、本件商標の使用の事実からは、原告を連想し、原告又は原告と何らかの関係ある者の業務に係る役務と出所の混同を来すことは明らかであるから、商標法4条1項15号の解釈を誤ったものである。その理由は、以下のとおりである。

(1)  審決は、「『ホテル銀座ダイエー』の名称が常に一連に表示して使用されるとともに、本件商標が一貫して同一の構成態様により永年継続して使用された結果、本件商標は少なくともその出願時には、既に需要者間に原告(請求人)とは別の者による労務の提供に係る別異の商標として認識されていたものといわざるを得ない。」と認定判断した。

しかしながら、本件商標の出願時、原告は流通業を中心に事業を発展させ、原告を中心とする企業グループであるダイエーグループは、一大企業グループとして、判決別紙2のとおりの構成から成る商標(以下「ダイエー商標」という。)も、同グループの中心的商標として著名となっていた(なお、当時「ダイエー」の名称を付したスーパーマーケットは、日本国内で219店にも及び、それ以外の関連会社を含めると約8000店にも及んでいる。)。そして、ダイエーグループも、他の企業グループと同様、流通業のみならず、昭和46年にホテル分野への進出を発表し、昭和55年にはホテル業への進出が具体化し、翌56年、ダイエーグループ初のホテルが成田で開業した。ダイエーグループのホテル業への進出は、新聞等でも報道された。

原告は、昭和55年フランスの名門百貨店「オ・プランタン」との業務提携、銀座への進出を発表し、被告営業の「ホテル銀座ダイエー」から目と鼻の先の銀座3丁目に百貨店「プランタン銀座」を開業した。「プランタン銀座」はダイエー系百貨店の銀座への進出、「百貨店戦争」として新聞紙上をにぎわした。銀座(7丁目)には、原告の子会社がハンバーガーチェーン「ウェンディーズ」の1号店を開設している。

以上のように、被告経営の「ホテル銀座ダイエー」の周辺には、ダイエーグループに属する企業が営業を行い、新聞等によりダイエーグループの一員として広く紹介されていた。

(2)  原告の使用する「ダイエー商標」は、原告のハウスマークとして著名で、本件商標の要部たる「ダイエー」と字体において酷似し、被告の本件商標の使用態様、すなわち、ホテルの屋上看板、袖看板での使用、及びパンフレット、請求書、料金表等の営業書類における使用方法は、極めて一般的な使用方法であり、また、時刻表、新聞に掲載している広告方法も、一般的な方法であって、何ら特異性はなく、原告の使用方法と何らの差異はない。

(3)  「本件商標が需要者間に原告とは別の者による役務提供に係る別異の商標」と認識されるには、本件商標の使用、労務の提供に際し需要者に原告による労務の提供でない旨が、需要者に対し、明示、黙示の方法で表示されるか、少なくとも、需要者に被告が本件商標の使用者でありかつ役務の提供者であることを十分に推測させる本件商標の使用方法、役務の提供方法が、本件商標出願前にされていなければならない。

被告は、東京の中心地銀座で宿泊施設を提供しているが、ビジネス客、観光客を主な顧客とし、料金、サービスの内容等は一般的なホテルで、きわだった特異性は認められない。被告は、役務の提供に際し、被告が営業している旨を明示もせず、需要者が被告営業のホテルであることを認識することもない。

かえって、被告営業のホテルからわずか3ブロック有楽町寄りには、前記百貨店「プランタン」(昭和59年開業)が位置し、需要者は、本件商標を見たとき、「ダイエーグループ」を強く意識する。

(4)  原告が、被告経営のホテルを利用する可能性の高い地方を中心に、平成10年10月アンケート調査を実施したところ、そのうち53.7%の者が本件商標を見て、原告と何らかの関係のあるホテルと思うと答えた。「「ダイエー」を連想して紛らわしいと思う。」と答えた者も合わせると、84.7%に及ぶ。

2  審決取消事由に対する被告の反論

原告の主張は争う。本件商標は、原告主張のように、商標法4条1項15号に該当するものではない。

(1)  原告がホテル事業の経営に乗り出し、原告自身ではなく、原告グループとして本格的に宿泊施設の提供の事業展開をするようになったのは、ここ4、5年のことと思われる。

平成4年4月1日からサービスマーク登録制度が導入され、これに伴い、平成4年4月1日から同年9月30日までの間にされた出願は、経過措置により、出願の前後を問わずに既使用に関する主張と証明があるサービスマークを未使用のものより優先して登録することとされ、その主張をするには、特例商標登録出願をする必要があった。また、特例商標登録出願人が子会社、系列会社等の行っている業務を自己の業務として出願する場合の取扱いもあった。しかしながら、原告はこれらの特例の出願をしていなかったから、原告は、その事業展開するホテルの名称に「ダイエー」の文字を使用していなかったし、原告を中心とする企業グループも同様であったと推認される。

(2)  被告経営ホテルの推移、その名称、商標の経緯は、大要、審決が摘示した被告の主張のとおりであり、被告及び関連会社は、昭和44年1月ころから本件商標を一貫して同一の構成態様により永年継続して使用したものである。その結果、本件商標は、少なくともその出願時には既に需要者間に原告とは別の者による役務の提供に係る別異の商標と認識されるに至っていた。そして、本件商標は、使用に基づく特例の適用を主張して出願し、登録を受けたものである。

第4  当裁判所の判断

1  原告の業務の経緯等

原告は、本件商標が商標法4条1項15号に該当すると主張する。そこで、原告の業務の経緯及び本件商標登録出願日当時の状況についてみるに、証拠(甲5、7、8、乙42)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認めることができる。

(1)  大栄薬品工業株式会社は昭和32年に設立され、大阪市旭区の京阪電車千林駅前にディスカウント・ドラッグストアとして「主婦の店・ダイエー薬局」を開業した。同店はその後スーパーマーケット「ダイエー」との営業表示となったが、昭和30年代半ば、その支店として、大阪市、神戸市で三宮店、三国店、板宿店、西神戸店が開店し、昭和37年には年商1000億円を超え、従業員数も1000人以上となった。一方、従前から存在した和角商工株式会社(現在の原告)は、昭和44年11月24日に株式会社ダイエーと商号変更をし(同月26日登記)、商号変更により株式会社主婦の店となっていた前記大栄薬品工業株式会社を合併した(その旨の登記は昭和45年3月18日)。

(2)  原告は、スーパーマーケット・ダイエーの支店を各地に順次増やして拡大し、昭和44年東京の原町田店、赤羽店を開業し、昭和45年には、立川店、八王子店、古川橋店(港区)を開業し、首都圏への進出も果たした。原告経営のスーパーマーケット・ダイエーの売上高は、昭和47年8月期に小売業としてデパートを抜き、日本一となった。ダイエーの年商は昭和54年には1兆円を実現した。

(3)  本件商標の出願日である平成4年9月30日には、「ダイエー」の名称を付したスーパーマーケットは200店余りになった。原告は流通業以外にも各種事業に進出し、原告を中心とする企業グループ「ダイエーグループ」に属する企業は、当時180社を超えるに至っていた。

(4)  ホテル業に関しては、昭和46年3月「ダイエーがホテルに進出 近く青写真〝安く、手軽く〟を目標に」とサンケイ新聞等に報じられた後、昭和55年2月「今度はホテルに進出 ダイエー、まず成田市で」と日本経済新聞で報じられた。昭和56年8月、原告の系列会社経営のホテルである「ホテル・セントラーザ成田」が千葉県成田市に開業し、当時「〝スーパー直営〟開店」と毎日新聞で報じられた。

(5)  原告は昭和55年、フランスの著名百貨店「オ・プランタン」との業務提携と銀座への百貨店出店を発表し、昭和59年4月に開業し、ダイエー系の百貨店としてプランタン銀座の開業したことが大手各紙で報じられた。銀座には、原告がアメリカの会社と業務提携して発足して設立した原告系列の会社によって、ハンバーガー店「ウェンディーズ」が昭和55年5月に開業し、日本食糧新聞、夕刊フジなどで報じられた。

(6)  なお、原告の使用する「ダイエー商標」の「ダイエー」の文字の字体は、昭和50年ころに採用され、以来使用されることになった。

2  「ホテル銀座ダイエー」の業務の推移及び本件商標の出願の経緯等

一方、証拠(甲3、乙2の1・2、3~7、8、9、13、14、16、18、56、59の1・2、60~62)及び弁論の全趣旨によれば、被告及びその関連会社の業務の推移及び本件商標登録出願の経緯は、次のとおりと認められる。

(1)  被告の代表取締役大湯和男の父であり、大栄観光企業株式会社の代表取締役大湯詔治の父である大湯栄三は、昭和31年までに、自己の氏名の二つの文字を採択して「大栄荘」(だいえいそう)と名付けた旅館を、銀座3丁目に取得しそいた自己所有の土地上に開業し個人経営を行っていたが、その後昭和31年5月に設立した大栄観光企業株式会社の経営とした。大栄荘は、昭和35年4月、日本交通公社協定旅館等となった。

(2)  大栄観光企業株式会社は、昭和40年に東京都文京区小石川1丁目に「ホテルダイエー」を開業し、これに合わせて、銀座の大栄荘も、昭和44年1月に「ホテル銀座ダイエー」と名称変更をし、ホテル銀座ダイエーは、交通公社発行の時刻表の昭和44年1月号から日本観光旅館連盟会員旅館、日本交通公社協定旅館として登載されるようになった。

(3)  本件商標のうち「ダイエー」の文字部分は、上記小石川の「ホテルダイエー」が昭和40年当時から建物の袖看板や取引書類に使用してきた標章の文字と同一の字体であり、昭和44年に銀座3丁目の「大栄荘」が「ホテル銀座ダイエー」に名称変更した後も本件商標と同一の字体が使用されてきた。そして、本件商標は、平成4年に使用に基づく特例の適用を主張して登録出願された。

(4)  ホテル銀座ダイエーは、昭和54年10月、大栄観光企業株式会社の経営名義から株式会社ホテル銀座ダイエー(昭和58年に株式会社大湯駐車場と商号変更された。被告とは別会社であるが、同族会社である。)の経営名義とし、さらに平成2年11月、大栄観光企業株式会社の子会社として設立されていた被告の経営名義に移行したが、その間の昭和55年12月には政府登録ホテル第483号として登録され、本件商標登録出願の平成4年当時、被告の年間売上高は3億7500万円余りであった。

3  原、被告の業務経緯等の要約

以上1、2の事実によれば、原告は本件商標登録出願当時、スーパーマーケットを始めとする小売業につきわが国で主要な地位を占め、小売業にとどまらない事業展開をしてきたものということができる。しかしながら、一方で被告も本件商標登録出願当時、「ホテル銀座ダイエー」の営業表示の下で、関連会社の経営時代も含めると約24年間(「大栄荘」時代も含めると少なくとも37年間以上)にわたり銀座3丁目の同一場所においてホテルを経営してきたのであり、その間わが国の主要な旅館業連盟に加盟するなど、相当額の売上げを継続してきていることが明らかである。

4  本件商標の商標法4条1項15号該当の有無

(1)  本件商標は、審決が認定するとおり(判決別紙1の別紙参照)、左から順次、ゴシック体で横書きした「ホテル」の片仮名文字、細く縦書きした「銀座」の漢字、他の文字よりやや大きくゴシック体で横書きした「ダイエー」の片仮名文字を配した構成から成る(原告は本件商標の「ホテル」と「ダイエー」の文字はゴシック体ではないとも主張するが、ゴシック体にも種々あり、上記各文字が広い意味でゴシック体から成ることは明らかである。なお、本件商標の「ダイエー」の文字と、原告使用のダイエー商標(判決別紙2参照)の文字とは、「ダイエ」の文字部分が具体的には異なっている。そして、本件商標の文字の方が先に使用されてきたものである。)。そのうち「銀座」の文字は前後の「ホテル」及び「ダイエー」の片仮名により成る文字に挟まれて縦書きにして前後の文字よりも字体が小さいものとなっている。そして、字体としては「ダイエー」の部分が最も大きく、外観上「ダイエー」の部分が最も強く印象づけられ、「ホテル」がこれに続くものである。

(2)  しかしながら、「ダイエー」なる称呼は、原告経営のスーパーマーケットの営業表示として著名になったとはいえ、もともと種々の漢字の組合せから成る言葉の略称的な称呼として多様なものが想起されるのであり(他にも、往時の映画会社「大映」も想起される。)、称呼自体として独創性のあるものではない。被告経営のホテルの従前の名称「大栄荘」の要部である「大栄」もその例であり、創業者の氏名にあやかったものではあるが、その漢字の組合せから生じる「大いなる繁栄」との観念は、通常人が容易に想起し得るものである。

したがって、本件商標の「ダイエー」の部分が最も大きい字体となっていても、称呼からはその出所を具体的に観念することはできず、業種及び所在地と合わせてでないとその観念は想起することができないと認められる。したがって、本件商標の称呼は、業種及び地名を含む「ホテル銀座ダイエー」として一連のものとしてしか区別することができないというべきである。

(3)  なお、ホテル銀座ダイエーを経営してきたのが、大栄観光企業株式会社、株式会社ホテル銀座ダイエー(株式会社大湯駐車場)ないし被告であったことが一般に知れわたっていることまでを認めるべき的確な証拠はないが、昭和55年に原告がホテル業に進出と報じられ、その場所も成田市と具体的に報じられたことの反面として、従前から存した「ホテル銀座ダイエー」は、原告とは無関係の会社が経営してきていると一般に認識されたものというべきである。確かに、原告の系列会社がホテルを経営している事実も認められるが、本件商標登録出願当時に経営していたのは、前記のとおり成田市におけるものであり、その名称にも「ダイエー」の文字は使用されておらず、「ホテル・セントラーザ成田」であることは前認定のとおりである。また、原告の系列会社が、本件商標登録出願当時、銀座で百貨店及びハンバーガー店を経営していたが、ダイエーの商号ないし商標は使用されていないことも前記認定のとおりであるから、ホテル業に進出し、銀座に関連業種を展開した原告の業務展開事実関係をもってしても、「ホテル銀座ダイエー」との本件商標が原告の業務に係る役務と混同を生じるおそれがあると認めることはできない。

(4)  甲第59号証の1、2によれば、流通科学大学商学部の佐藤善信教授が平成10年11月実施した郵便によるアンケート調査において、本件商標を見て原告と何らかの関係のあるホテルと思うと回答した者が半数以上あり、「「ダイエー」を連想して紛らわしいと思う。」と回答した者も3割を超えていることが認められる。しかしながら、このアンケートが誘導的な質問を避けるために工夫されたものとはいえ、単純な印象を問う結果となっているところ、原告とホテル業との関係に疑問を呈している回答も見受けられるほか、アンケート対象者が前記認定の被告経営ホテルの経緯や本件商標の使用の経緯等を知っているものとは認められないし、平成4年当時の原告のホテル業進出の内容も前記認定のとおりであることからすると、平成10年に実施されたアンケート調査から、これを直ちに平成4年9月の本件商標登録出願当時の一般人の認識であると推認することには疑問がある。

5  要約

以上判示したところによれば、本件商標は、その指定役務である宿泊施設の提供に使用しても、これに接する需要者が原告を想起し又は連想する結果、原告の業務に係る役務と混同を生じるおそれがあるものと認めることはできないというべきであり、商標法4条1項15号に該当するものではない。

第5  結論

したがって、本件商標は商標法4条1項15号に違反して登録されたものとはいえないとした審決の判断に誤りはなく、審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。

(平成10年12月24日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

平成8年審判第8670号

審決

兵庫県神戸市中央区港島中町4丁目1番1

請求人 株式会社ダイエー

東京都港区虎ノ門1丁目21番19号 秀和第二虎ノ門ビル9階 下坂国際特許事務所

代理人弁理士 下坂スミ子

東京都中央区銀座3丁目12番2号

被請求人 株式会社ホテル銀座ダイエー

東京都中央区銀座4丁目5番1号

代理人弁護士 長瀬弘毅

東京都千代田区六番町3-1 協和ビル6階 近藤特許事務所

代理人弁理士 近藤豊

上記当事者間の登録第3073593号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1.本件登録第3073593号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成からなり、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則第5条第1項の規定により使用に基づく特例の主張をし、平成4年9月30日に登録出願、第42類「宿泊施設の提供」を指定役務として平成7年8月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

2.請求人は、本件商標の登録を無効とする、との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び同第2号証を提出している。

(1) 本件商標は、漢字縦書の「銀座」を挟んで左側に「ホテル」、右側に「ダイエー」を配した構成よりなるものであるが、「ダイエー」の文字は、その前の「ホテル」や「銀座」の文字よりも大きく表示されているものである。したがって、本件商標においては、大きく表示されている「ダイエー」の文字が強く注目を引き、「ダイエー」の称呼・観念が一際大きく、独立して生じるものとなっている。そのため、以下に述べるように、本件商標は請求人会社の略称そのものといえ、また、請求人会社若しくは関連会社の役務と誤認・混同されるおそれが極めて大きいものである。

(2) 請求人会社は、平成4年12月発行の月刊経営塾(臨時増刊号)(甲第2号証)に記されているように、請求人会社社長の中内功が昭和32年に「主婦の店ダイエー」を開店したのに始まって、本件商標の出願時において、建設及びホテル関係の企業を含むグループ企業182社、年間5兆円を売り上げる巨大企業集団に成長していたものである。

そして、その急激な成長にともない、甲第2号証に見られるように、創業者の「中内功」及び「株式会社ダイエー」に関する書籍が実に数多く出版され、また、新聞やテレビ等において「ダイエー」に関する報道がよくなされ、「ダイエー」の商標や標章を使用して商品の販売及び役務の提供を行ってきたものであり、そのため、「ダイエー」は「株式会社ダイエー」の略称及び商標又は標章として極めて広く知られ、今日に至っているものである。

この巨大企業集団ダイエーグループにおいては、スーパーマーケット、ファイナンス、建設、飲食、旅行代理店や保険業等の種々の業種にわたる業務を行っており、それらの中には甲第2号証に示すように、「ホテル」事業も行っでいるものである。また、ダイエーグループは、甲第2号証にもみられるように、グループ会社に「ダイエー」の語をその社名として使用するものが多数あり、このことも本件商標の出願時にはすでに広く知られていたものである。

(3) 前述した如く、本件商標の出願時までに、「ダイエー」は請求人会社の略称として周知著名で、「ダイエー」といえば請求人会社又はそのグループ会社を指称するものであると広く深く一般に周知され認識されていたものである。そして、この著名性は、曽って東京高裁におけるHILTON事件(平成1年11月9日)におけるHILTONの著名性に勝るとも劣らないものである。しかるに、本件商標は、請求人の承諾なしに出願されたものである。

(4) 更に、本件商標は、冒頭に述べたように、縦書き「銀座」の漢字を中心に、その左側に「ホテル」を、そして右側に「ダイエー」を配してあり、その上、「銀座」の文字は縦横が4mm、「ホテル」の文字が縦横7mmからなるものに比し、「ダイエー」の文字はそれらよりひときわ大きく、縦8mm横1cmにおよぶ大きさとなっており、また、本件商標中の「ダイエー」の文字を除く「ホテル」及び「銀座」は、その構成上から分離切断されているのみならず、その意味においてもいずれも業態名と地名であって、唯一の商標性のある語はひとり「ダイエー」のみであり、本件商標における識別性は「ダイエー」にあるものである。

したがって、「ダイエー」の語が大きく表示され、「ダイエー」の称呼・観念が生ずる本件商標は、本件請求人会社又はその関連会社の役務と誤認混同される可能性が極めて大きいものである。

(5) 以上の通り、本件商標は商標法第4条第1項第8号及び第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

4.被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第48号証(枝番を含む。)を提出している。

(1) 請求人は審判請求書において、請求人会社がいわゆる大企業である旨主張しているが、もとより被請求人は請求人のこの主張自体を否定するものではない。

(2) そもそも、商標法は商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とするものであり(商標法第1条)、特定人に市場を独占させるために商標法があるものではなく、いわんや特定企業がコングロマーチャント化することを手助けするためにあるものではない。

(3) 被請求人が入手した請求人会社の会社登記簿謄本によれば、請求人会社が「和角商工株式会社」から「株式会社ダイエー」に商号変更し現商号になったのは昭和44年11月20日であり(乙第42号証)、更に請求人会社が大阪市旭区平林町3丁目236番地所在の株式会社主婦の店ダイエーを合併しその登記がなされたのは昭和45年3月18日である(乙第42号証)。

また、1994(平成6)年6月11日付「日本経済新聞の地方経済面(14面)」によれば、「日本初の開閉式屋根付きドーム球場である福岡ドーム。その横にダイエー・グループが建設中の高層ホテル『シーホークホテル&リゾート』は、高さ百四十三メートル、『ホテル業は全く経験したことがない。あまりの大役で、正直言って自信がない』と率直に語る。三月二四日のこと。中内功ダイエー社長から『シーホークホテル&リゾートプロジェクトリーダー』に任命された。注文は『ホテルとしての統一コンセプトを考えるように』。この日からホテル業の猛勉強が始まった。・・・・」の掲載があり(乙第43号証)、更に1995(平成7)年5月23日付「日経流通新聞(15面)」によれば、「『総合生活産業を目指している当社にとって生活提案の場所にふさわしいホテルという業態は欠かせない』。ダイエーの中内功社長は四月末に福岡市内のツインドームシティ内にオープンしたシーホークホテル&リゾートの記者会見でホテル事業の魅力をこう表現した。ダイエーグループは総客室千五十二室と九州で最大の規模を誇る同ホテルをはじめとしてホテル事業を積極的に推進している。今年7月には千葉県浦安市に新浦安オリエンタルホテル、神戸市には神戸メリケンパークオリエンタルホテルの二つのホテルを開業する。同社は八七年に神戸の名門ホテル、オリエンタルホテルを傘下に収めた。当時は子会社を通じてビジネスホテル『セントラーザ』を展開しているだけで、これが本格的にホテル事業に乗り出すきっかけとなった。・・・・現在ダイエー本社にホテルを統括する部署がなく、それぞれのホテルが独自に運営している。・・・」の掲載がある(乙第44号証の1及び2)。

してみると、請求人がホテル事業の経営に乗り出し、本格的に宿泊施設の提供の事業展開をするようになったのはここ2~3年のことのように思われる。被請求人が思うには、請求人がホテル事業の経営に乗り出したのは、スーパーにおける小売業の売り上げが近年頭打ちの傾向にあることと無関係ではなく、小売業における事業展開に限界を感じた、創業者中内功氏による経営方針の転換が色濃く反映しているものと思料する。更に、被請求人の調査では、請求人は「ダイエー」及び「DAIEI」の商標を「宿泊施設の提供等」の役務を指定して、それぞれ商願平4-225827号及び商願平4-225835号として出願している(乙第45号証)。しかしながら、どうしたわけか、いずれの出願も使用に基づく特例の適用を主張して出願した形跡がない。また、旅館業法第3条によれば、「旅館業を経営しようとする者は、政令の定める手数料を納めて、都道府県知事(保健所を設置する市にあっては、市長。第9条の2を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。」旨規定されている(乙第1号証)。被請求人は請求人に対し、請求人がこの旅館業法第3条に基づく許可を受けていることを証する書面の提示を強く求めるものである。

(4) 被請求人会社は、「ホテル銀座ダイエー」なる名称を「宿泊施設の提供」のサービスを提供するための施設名称として、昭和44年1月頃より現在に至るまで継続して使用してきた実績がある(乙第2号証の1及び2)。すなわち、東京都中央区中央保健所長の証明書である乙第2号証の1及び2によれば、「ホテル銀座ダイエー」なる名称を「宿泊施設の提供」というサービスを提供するための施設名称として、昭和44年1月頃より現在に至るまで、〈1〉大栄観光企業株式会社〈2〉株式会社ホテル銀座ダイエー〈3〉株式会社大湯駐車場(乙第4号証)〈4〉株式会社ホテル銀座ダイエー(被請求人会社;乙第5号証)の各経営主体(以下「被請求人会社等」という。)が業務を承継しながら継続して使用してきたところである。

被請求人会社は、大規模高級ホテルが増加する中で、東京銀座の超一等地において建物を構える中規模のホテルであり、「宿泊施設の提供」のサービスを業として提供するに際し、地の利を生かしながら堅実をモットーに成長を遂げてきたホテル会社である。

(5) 次に、被請求人会社等が本件商標を採択するまでの経緯と被請求人会社等の沿革との間には極めて密接な関係があるので、ここでこの点等について言及することとする。

〈1〉旅館「大栄荘」の存在及び「大栄荘」の施設名を採択するまでの経緯

(a)被請求人会社の代表者大湯和男氏と大栄観光企業株式会社の代表者大湯詔治氏の実父である大湯栄三氏(乙第6号証、大湯栄三氏は当年91才で健在であるが既にホテル経営の第一線を退いている。)は、現在の「ホテル銀座ダイエー」の建物が立っている土地を昭和22年10月4日に取得し(乙第7号証)、その後同地に自己の名前「大湯栄三」の「大」と「栄」の2文字を選択して命名した旅館「大栄荘」(「ダイエーソウ」と読む。)を開業した(乙第8号証、同第9号証参照。なお、乙第2号証の1に示されるように、この「大栄荘」は「ホテル銀座ダイエー」に施設名称変更され、中央区の保健所への届出が昭和44年1月6日になされている。)。

(b)この「大栄荘」は、妻なつの奮闘を得て短期間のうちにかなりの繁盛ぶりをみせ、昭和31年5月に設立された大栄観光企業株式会社(被請求人会社の親会社;乙第3号証、同第9号証、同第18号証参照)が業務を承継し、管轄保健所の許可を得た昭和35年4月22日には日本交通公社協定旅館の地位を得るまでになっていた(乙第2号証の1及び同第10号証)。

なお、大湯なつ氏は平成8年1月11日に行年84才にて亡くなったが(乙第6号証、同第9号証)、「ホテル銀座ダイエー」が今日の地位を築くまでの奮闘ぶりについては、乙第9号証及び故大湯なつ氏が62才の時に「北国新聞」に掲載された「東京・細うで繁盛記」と題する記事を参照されたい(乙第11号証)。

〈2〉「ホテルダイエー」の存在及び「ホテルダイエー」の施設名を採択するまでの経緯

(a)その後、昭和39年に開かれた東京オリンピックを契機として、「大栄荘」を欧米に見劣りのしない旅館(ホテル)とするよう新改築を計画したが、諸般の事情(場所が東京銀座地区のため実際に様々な障害や妨害があり、これらの問題をクリアする必要があった。)によりやむなく計画を一時保留し、その代りに、当時すでに取得していた東京都文京区小石川の土地(現在の「ホテル小石川ダィェー」の建物が立っている土地:乙第12号証)に社団法人日本ホテル協会に登録されるような本格的なホテルを新築することを計画し、速やかに実行に移して昭和40年に施設名称が「ホテルダイエー」のホテルを開業したものである(乙第13号証、同第14号証)。

(b)ホテル名を「ホテルダイエー」としたのは前出の旅館「大栄荘」との系列関係を顧客、取引者等に明確にするとともに、従来の日本的経営の旅館のイメージを払拭し、更に昭和40年当時主流となっていたホテル名のネーミングをカタカナ書きとすることを勘案して「大栄」をカタカナ「ダイエー」に改め「ホテルダイエー」としたものである(ちなみに、東京オリンピックが開催された昭和39年当時に「ホテル大谷」は「ホテルニューオオタニ」に、「ホテル大倉」は「ホテルオークラ」に、「宝ホテル」は「タカラホテル」にそれぞれ改称されている。)。

〈3〉「ホテル銀座ダイエー」の存在及び「ホテル銀座ダイエー」の施設名を採択するまでの経緯

(a)前述の通り、「大栄荘」は「ホテル銀座ダイエー」に施設名称変更され(乙第2号証の1)、東京都文京区小石川の「ホテルダイエー」の新築と並行して、「大栄荘」を2回増改築し現在の「ホテル銀座ダイエー」の建物となっている(乙第15号証、同第19号証、同第23号証、同第24号証及び同第46号証参照)。

(b)被請求人会社の親会社である大栄観光企業株式会社が昭和44年に「大栄荘」の名称を「ホテル銀座ダイエー」と改称したのは、文京区小石川の「ホテルダイエー」(乙集13号証及び乙第14号証)と区別するために「銀座」の地名を付し「ホテル銀座ダイエー」とした経緯がある。

なお、「ホテルダイエー」は爾後「ホテル小石川ダイエー」と改称し、「ホテル銀座ダイエー」と区別し今日に至っている。

(c)したがって、「ホテル小石川ダイエー」と「ホテル銀座ダイエー」とは、いわゆる親子(あるいは姉妹)ホテルと呼べる関係にある。

〈4〉このような事情により、創業者である大湯栄三氏及び被請求人会社等にとっては、「大栄」及び「ダイエー」の名称、「銀座」の地名には格別の思い入れがある。

(6) 更に、被請求人会社等が経営する「ホテル銀座ダイエー」は昭和55年12月20日に政府登録ホテル第483号として登録され(乙第16号証)、また被請求人会社等は昭和57年4月1日に東急観光株式会社との間でも旅客あっ旋契約を締結している(乙第17号証)。

(7) 被請求人会社の規模等

被請求人会社が京橋税務署に差出した確定申告書に基づき、最近(平成2年8月~平成7年末まで)の被請求人会社の売上高の推移及び年間に投資した広告宣伝費(乙第18号証)について示すと、1989年8月から1990年7月までの売上高363,099,002円、広告宣伝費7,206,522円、1990年8月から1991年7月までの売上高382,949,523円、広告宣伝費6,180,889円を始め、1994年8月から1995年7月までの売上高358,704,999円、広告宣伝費6,011,521円であった。

(8) 被請求人会社の本件商標等の使用態様及び使用実績

〈1〉一般に、「サービス」はサービス提供の特定場所に赴くか、又は、その特定された場所に連絡をとる必要があり、直接提供者と相対峙して、目的のサービスを直接受けるものである。被請求人は、被請求人会社のホテルの屋上に設置した「看板」及び建物の「袖看板」に本件商標を使用し(乙第19号証)、被請求人会社が宿泊客に発行する請求書、料金表に本件商標を付したものを使用している(乙第20号証乃至同第22号証)。

〈2〉被請求人会社等が配布している「パンフレット」(乙第15号証、同第23号証及び同第24号証)や、被請求人が配布している「ホテル銀座ダイエー」の場所等を示す名刺大の「日本文及び英文のカード」(乙第25号証及び同第26号証)にも本件商標を使用している。

〈3〉被請求人会社等が、「宿泊施設の提供」のサービスを提供するに際し、本件商標を中核とする「ホテル銀座ダイエー」の商標を時刻表、電話帳、新聞等に広告掲載して使用し(乙第27号証、同第28号証、同第30号証乃至同第32号証、同第35号証)、また昭和59年頃より東京駅八重洲口正面玄関右側のJR切符発売所に隣接した場所に設置されているコンピュータトラベルガイド(いわゆるコンピュータを使っての案内・・・・コンピュータの画面には乙第33号証の2に示すものと同内容の文面・地図が表示される。アウトプットしたものが乙第33号証の2である。)においても、被請求人のホテル名「ホテル銀座ダイエー」を付し広告・案内に努めてきた実績がある。

A.時刻表の部

(a)「日本交通公社」発行の時刻表の日本観光旅館連盟会員旅館・日本交通公社協定旅館の東京都の欄において、1969年には「ホテル銀座ダイエー」の名称が掲載されている事実がある(乙第27号)。

(b)「日本交通公社」発行の時刻表に本件商標を付した広告記事を掲載している事実がある(被請求人の親会社が経営する「ホテル小石川ダイエー」と一緒に本件商標「ホテル銀座ダイエー」を付して使用している(乙第28号証))。

(c)被請求人は、「日本交通公社」の時刻表における上記広告記事を、本件外株式会社日本交通事業社並びに改称後の株式会社ジェイ・アイ・シーサポートに依頼し、残存する領収証及び銀行の振込領収証によれば、広告記事掲載料を長期にわたり毎月支払っている(乙第29号証)。

B.電話帳の部

(a)「日本電信電話公社」発行の東京23区50音別電話帳に、あるいは民営後の「NTT」発行のハローページ東京都23区全区版下巻50音別電話帳において、「ホテル銀座ダイエー」の名称が掲載され、あるいは、本件商標を付した広告記事を掲載している事実がある(乙第30号証)。

(b)また、「日本電信電話公社」発行のリビング東京23区職業別電話帳に、あるいは民営後の「NTT」発行のタウンページ東京都23区職業別電話帳において、「ホテル銀座ダイエー」の名称が掲載され、あるいは、本件商標を付した広告記事を掲載している事実がある(乙第31号証)。

(c)更に、「JAPAN YELLOW PAGES LTD.」発行に係る「JAPAN YELLOW PAGES」(英文のもの)において、「ホテル銀座ダイエー」が「HOTEL GINZA DAIEI」の英文表記により掲載されている(乙第32号証)。

C.東京駅に設置されているコンピユータトラベルガイドにおける、被請求人のホテル名「ホテル銀座ダイエー」の広告宣伝

(a)被請求人は、東京駅に設置されているコンピュータトラベルガイドにおいて、被請求人のホテル名「ホテル銀座ダイエー」を広告し使用している(乙第33号証の1及び2)。

(b)このコンピュータトラベルガイドによれば、「都内ホテル案内(その1)」において、「ホテル銀座ダイエー」が案内文によるインフォメーションにより地図つきで紹介されている(乙第33号証の2)。

(c)被請求人は、このコンピュータトラベルガイドにおける広告案内を、本件外株式会社近宣に依頼し昭和59年頃より行っている事実がある(乙第33号証の1)。そして、残存する領収証及び銀行の振込領収証によれば、広告・案内掲載料として相当額を支払っている(乙第34号証)。

D.新聞の部

(a)被請求人は、昭和59年頃より忘年会の時期になると、「ホテル銀座ダイエー」は飲食物の提供をも行なっていることを宣伝するための広告記事(本件商標あるいは「ホテル銀座ダイエー」を付した記事)を日刊紙「日刊ゲンダイ」にも掲載し使用している(乙第35号証)。

(b)被請求人は、「日刊ゲンダイ」に本件商標を付した広告記事を、本件外株式会社日刊現代通信社に依頼し、残存する領収証によれば、広告記事掲載料として一回18万円を支払っている(乙第36号証)。

E.出版物(雑誌等)の部

(a)最近発行された若者向けの雑誌においても被請求人が経営する「ホテル銀座ダイエー」が雑誌の記事中の銀座地区の地図に記載され、「ホテル銀座ダイエー」は若者宿泊用のホテルとしても認知されている(乙第37号証、同第38号証)。更に、「ホテル銀座ダイエー」は若者を対象とする各種イベント会場としても利用されている現状にある(乙第39号証)。

(b)被請求人が経営する「ホテル銀座ダイエー」は政府登録ホテルであるため(乙第16号証)、外人向けのジャパンホテルガイドにも掲載され(乙第40号証)、この雑誌においても本件商標を使用している。

(c)更に、上記(b)と同様の理由により、KDD発行の「KDD Map of Tokyo」(英文のもの)の銀座地区のMAPにおいて、「ホテル銀座ダイエー」が「HOTEL GINZA DAIEI」の英文表記により掲載されている(乙第41号証)。

(9) 以上のごとく、被請求人会社等は宿泊施設の提供を行うに際し、昭和44年より現在に至るまで、本件商標を中核とする「ホテル銀座ダイエー」の商標を継続して使用し、本件商標を中核とする「ホテル銀座ダイエー」商標を顧客へ浸透させるための企業努力を重ねてきている。いうまでもなく、本件商標は被請求人会社が提供するサービスの根幹をなす商標であり、被請求人が「宿泊施設の提供」のサービス業務を行っていく上で健全なる事業経営・発展・事業規模の拡大を図るためには、被請求人の商号(略称)である本件商標の存在は必須不可欠である。

(10) 以上に述べた理由により、本件商標は商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に該当するものではない。

5.そこで、本件審判請求に関する利害関係について当事者間に争いがないので本案に入って判断する。

本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるものであるかどうか、また、本件商標が請求人の著名な略称を含むものであるかどうかについて検討する。

本件商標は、別紙に表示したとおり、左から順次、ゴシック体で横書きした「ホテル」の片仮名文字、細く縦書きした「銀座」の漢字、他の文字よりやや大きくゴシック体で横書した「ダイエー」の片仮名文字を配した構成からなるところ、請求人の主張するように、構成中の「ホテル」及び「銀座」の文字が業態名及び地名を表示するものであるとしても、全体としてまとまりよく表されているばかりでなく、「ホテル」の文字及び地名を結合したものがホテルの名称として採択し使用されている事例が少なくないこととも相俟って、かかる構成にあっては、ホテルの一つの名称を表したものと認識し得るものである。

しかして、被請求人の提出に係る乙第2号証の1、同第6号証乃至同8号証、同第13号証、同第14号証、同第16号証及び同第46号証によれば、被請求人会社の代表者大湯和男及び大栄観光企業株式会社の代表者大湯詔治の実父である大湯栄三が昭和22年に被請求人の現在所在する土地を入手して以来、同土地に旅館「大栄荘」が遅くとも昭和32年には開業されたこと、文京区小石川に「ホテルダイエー」の名称のホテルが昭和40年に開業されたこと、前記旅館は昭和44年1月に「ホテル銀座ダイエー」に施設名称変更され、昭和55年12月には政府登録ホテルとして登録され、現在に至っていることが認められる。

そして、乙第19号証乃至同24号証によれば、本件商標と同一の構成からなる商標が、被請求人のホテルの屋上看板、袖看板に使用されているほか、被請求人が発行する請求書、料金表等の営業書類に付されて取引に資されていることが認められる。また、乙第27号証、同第28号証、同第30号証及び同第35号証によれば、1969年(昭和44年)には日本交通公社発行の「時刻表」の日本観光旅館連盟会員旅館・日本交通公社協定旅館の東京都の欄に「ホテル銀座ダイエー」の名称が掲載されるとともに、同「時刻表」には1982年(昭和57年)以来、本件商標を表示した広告が掲載されていること、日本電信電話公社発行の東京23区50音別電話帳及びNTT発行のハローページ東京都23区全区版下巻50音別電話帳に、1990年(平成2年)10月以来、本件商標を表示した広告が掲載されていること、日刊紙「日刊ゲンダイ」に、昭和60年から本件商標を表示した広告が掲載されていることが認められる。

他方、請求人の提出に係る甲第2号証によれば請求人が種々の業種にわたる業務を行い、「ダイエー」の文字が請求人の略称として又は商標として広く認識されていることが認められるとしても、被請求人の提出に係る乙第43号証、同第44号証の1及び2によれば、請求人がホテル事業を積極的に展開するようになったのは本件商標の出願後であり、また、請求人が事業展開するホテルの名称には「ダイエー」の文字は一切使用されていないことが認められる。更に、乙第42号証によれば、請求人が「和角商工株式会社」から「株式会社ダイエー」に商号変更したのは昭和44年11月であり、また、「株式会社主婦の店ダイエー」を合併したのは昭和45年3月であって、いずれも被請求人がホテルの名称中に「ダイエー」の文字を採用した後であることが認められる。

以上を総合すれば、「ホテル銀座ダイエー」の名称が常に一連に表示して使用されるとともに、本件商標が一貫して同一の構成態様により永年継続して使用された結果、本件商標は、少なくともその出願時には既に、需要者間に請求人とは別の者による役務の提供に係る別異の商標として認識されていたものといわざるを得ない。

してみれば、本件商標は、これをその指定役務に使用しても、これに接する需要者が請求人を想起し又は連想するようなことはなく、一連の名称を表示したものとして理解し認識するというのが相当であるから、請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る役務と出所の混同を生ずるおそれはなく、また、請求人の名称の著名な略称を含むものともいえない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に違反して登録されたものとはいえないから、本件商標の登録は、同法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。

なお、被請求人は証人尋問、当事者審判請求人本人尋問及び当事者審判被請求人本人尋問の申立てを行っているが、尋問事項はいずれも書証により認定し得るものであって、本件の判断に影響を及ぼすものではないから、これらの申立ては採用しない。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年1月5日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙

本件商標

〈省略〉

判決別紙2

〈省略〉

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